姫路市安富町。林田川をたどり、山の気配が濃くなるころ、分厚い茅の屋根が木々の間から姿を現します。
現存する国内最古(室町時代)の古民家「旧古井家住宅」。
民家では初の国宝に指定されることが決まりました。
大きな茅葺き屋根を見上げ、低い入口から中へ入ると、太い柱と梁、土間、囲炉裏、かまど。
そこには「展示された昔」ではなく、火を熾し、湯を沸かし、家族が肩を寄せて暮らした時間が、まだかすかに残っているよう。

中へ足を踏み入れると、広い土間にかまどや馬屋。居室部分は前座敷を広間(「おもて」)とし、奥に「ちゃのま」と「なんど」。
天井板はなく、見上げれば茅屋根を支える骨組みがむき出しのまま。豪壮な古民家に見られる大黒柱ではなく、細身の柱が律儀に並び、互いに支え合いながら家を守っています。

床板に残る、魚の鱗のような削り跡。それは鉋が広まる前、手斧で木を一枚ずつ削った職人の手仕事です。
竹のすの子にむしろを敷いた床、煙に燻された梁、光の届かない部屋の奥。ここでは建物を「見る」というより、室町の暮らしの中へ、そっと迷い込むような感覚になります。

そして、この家に眠る不思議な石。
「亀石」と呼ばれるその大石は、火事のたびに水を噴き出し、家を炎から守ったのだとか。以来、旧古井家住宅は「無災の千年家」と呼ばれるようになったという。
その評判は、豊臣秀吉の耳にも届いて、姫路城を築く際、秀吉はこの家の強運にあやかろうと、垂木の一部を城の建材に用いたという話が伝えられています。
この山里の家から渡った木が、今も姫路城のどこかを支えているのかもしれない。そう想像すると、なんとも感慨深い。
火を退けた石と、城へ渡った木。
旧古井家住宅に残るのは、古い建築だけではありません。
人々が家の無事を願い、語り継いできた物語そのものが、今も茅屋根の下で静かに息をしているのです。
/
/:土曜日・日曜日および祝日(12月28日から翌年1月4日は除く)10:00〜16:00
/:あり

