古い家には、ときどき、誰かの新しい人生が始まります。
革の財布やバッグ、小さな革小物。
もともとは、趣味で始めた革細工でした。
時間を見つけては革小物をつくり、できあがったものをフリーマーケットやネットショップで販売するようになると、少しずつ注文が入り、今度はどんなものを作ろうかと楽しみが増えていきました。
いつか、自分のつくったものを実際に手に取ってもらえる店を持てたら。
そんな夢を抱くようになったころ、家族にもひとつの転機が訪れます。
子どもの小学校入学を前に、これまで暮らしてきた賃貸住宅を出て、自分たちの家を持とうと考え始めたのです。
せっかく家を買うなら、暮らすだけの家ではなく、革製品をつくる工房と、小さな店も一緒につくれないだろうか。
家族の暮らしと、自分の仕事。そして、いつか叶えたいと思っていたお店。
それまで別々に思い描いていたものが、ひとつの家の中でつながり始めました。
けれど、自宅兼店舗にできる家探しは簡単ではありませんでした。
家族には暮らしやすくても、商品を並べる場所がない。店には向いていても、生活するには落ち着かない。何軒か中古住宅を見て歩きながら、自分たちに合う一軒を探しました。
そしてようやく出会ったのが、築40年以上になる庭付きの一戸建てでした。
畳の部屋があり、明るい広縁があり、革を広げて作業のできる部屋もある。
長い年月を過ごしてきた木の家に、自分でつくった革の財布や鞄を置いてみる。すると、新しい店舗にはないその家の空気と、革の色や質感が、不思議なくらいよく馴染みました。
ここなら、できるかもしれない。
家を購入すると、水まわりなど必要なところに手を入れ、和室の一部を商品を並べる空間へ。家そのものを大きく変えるのではなく、もともとの姿を生かしながら、自分たちの暮らしに合う場所へと整えていきました。
やがて、一軒の中古住宅の中に、小さな革の店が生まれました。

昼は革と向き合い、お客さんを迎え、子どもが学校から帰るころには家族の時間へ戻る。
店を持つという夢を叶えたことで、彼女が手に入れたのは、仕事場だけではありませんでした。
家族のそばで働き、自分の好きなものをつくりながら暮らしていく。
かつて誰かの暮らしを包んできたこの家で、今日も革をつくる時間と、家族の時間が、静かに重なっていきます。

